
女性ホルモンは乳がんにどのような影響を及ぼしますか?
乳房の発育を支配するエストロゲンが
乳がんの発生に深く関わっています。
■小林俊三先生(名古屋市立大学病院 乳腺内分泌外科)
乳房は、育児のための乳汁をつくる臓器です。乳汁の分泌には乳腺や腺房の発達が不可欠ですが、この発達を直接的に支配しているホルモンが「エストロゲン」です。このホルモンの影響を受けて、乳房は9歳ごろからふくらみはじめ、15歳でほぼ成人と同じくらいに発育します。しかし、乳腺の発達は未熟なままで、乳腺の分枝や腺房の形成も不十分です。その後、妊娠が成立すると、胎盤から分泌されるHCG(ヒト絨毛性腺刺激ホルモン)の働きによってエストロゲンは高値に保たれます。そのため乳腺の分枝や腺房の形成が促されて乳汁をつくる準備が整いますが、何らかの理由で妊娠を中断すると、この形成は不十分なまま終わります。つまり、出産を経験することによって乳腺は完成するのです。
エストロゲンの分泌量は30歳前にピークに達して、その後は次第に低下していきます。さらに40歳代に入ると著しく低下し、やがて閉経を迎えますが、エストロゲンは別のルートから産生され続けます。
一般に、乳がんの最初の発生は40歳代に多いとされています。「エストロゲンが急速に低下していく」年代ですが、分泌量が減る一方のエストロゲンを少しでも多く受け止めるために、乳管上皮細胞ではエストロゲン受容体(ER)が増えてきます。この受容体と結びついたエストロゲンは細胞分化や細胞増殖を促す働きがあるため、乳がんの発症につながると考えられています。一方で、体格の向上や食生活の高脂肪化により、日本女性の体内ではより多くのエストロゲンが分泌されるようになっています。こうした状況で乳腺は、何らかの発がん刺激によって傷ついた細胞が、エストロゲンの影響を受けて増殖し、がん化しやすい状況だといえるのです。
加齢とともに乳腺は萎縮しますが、ERが発現した乳管上皮細胞は残っているため、いくつになっても乳がん発生の可能性があるといえます。
乳腺の構造と機能に関わるホルモン