TOPコンセンサス会議 速報レポートReportCommentSession SummaryレポートOpening AddressSession1Session2Session3Session4Session5Session6Session7Session8Session9Session10帰国後座談会2007年のSt.Gallenを先生方に振り返っていただきますSt.Gallen Conferences 2005
Session Summaryレポート

会期中1〜3日目までに発表されるセッション1〜10では、ここ2年間の知見がレビューされる。これこそが、最終日のコンセンサス会議で示される治療指針へ続く“pathway”であり、それぞれのセッション内容の理解によりその先にある治療戦略がみえてくるともいえる。今回は、編集委員の先生方に、それぞれのご専門の立場からセッションをご担当・ご解説いただいた。

[Session 1] News since St. Gallen 2005 (3/14 Wed. 15:30-17:00)
[S1] The evolution of targeted biologic therapies (George W. Sledge, USA)
[S2] The evolution of adjuvant endocrine therapy (Ian Smith, UK)
[S3] The evolution of treatment strategies: Aiming at the target
(Martine J. Piccart-Gebhart, Belgium)
[S4] The evolution of adjuvant therapy - and the heart? (Thomas Suter, Switzerland)
[S5] The evolution of pathology in breast cancer: Relations between cellular origin and functional classification (Jose Palacios, Spain)

サマリー執筆:渡辺 亨(浜松オンコロジーセンター)

セッションサマリー

[S1] The evolution of targeted biologic therapies
George W. Sledge, Jr (Indiana University Cancer Center, USA)
 Dr. Sledgeは、乳癌治療におけるさまざま変革を、「microevolution(小さな変化)」から「macroevolution(大きな変化)」に分類し、これらは連続的なスペクトラムを形成するという、わかったようなわからないような、Sledge独特の分類を解説した。また、「speciation and adaptation in the clinic」という表現も用いたが、もっとわかりやすい表現をしないと、英語を母国語としない多くのヨーロッパ人は理解できないのではないか。
 彼が一番に挙げた大きな変化(macroevolution)は、術後治療としてのtrastuzumabの再発、死亡減少効果である。一方、小さな変化(microevolution)としては、HER familyに対する抗体、cetuximab、trastuzumabといった抗体薬、erlotinib、gefitinib、lapatinibなどの小分子tyrosine kinase阻害薬などの開発、作用機序の解明を挙げた。ここまできて、彼のいう「大きい」「小さい」というのは、影響の大きさというよりも、変革が起こっている舞台の大小をいっているということがわかった。
 次に、術後のtrastuzumabとlapatinibを比較するALTTO trial(BIG2.06/NCCTG N063D)を紹介した。これも、彼によればmacroevolutionの可能性を秘めている試験である。ここまできて、舞台の大小というよりも、分子レベルでの新たな発見、開発をmicroevolutionと位置づけ、その臨床的検証による乳癌臨床に変革をもたらすような新たな発見、開発をmacroevolutionと位置づけていることが明らかになった。
 分子標的薬剤の今後の方向性について、これまた「new species」「directed evolution」「systemic targeting」「host targeting」という彼独特の用語分類が用いられた。「new species」としては、新たな病型として注目されている「basal subtype」を挙げ、新たなターゲットとして、EGFR、c-KITに注目した。これに関する臨床試験として、cetuximabを用いたUS Oncology、BCRCの試験を簡単に紹介した。さらに、NSABP B-20登録症例を「Oncotype DX」によりlow、intermediate、highに分類し、各グループにおける抗がん剤CMFの効果を検討したPaikらのデータを紹介した。これも、「Oncotype DX」の利用によって、新たに明らかとなったリスク別の症例群をnew speciesと分類するものである。
 「directed evolution」としては、今後のゲノミクス、プロテオミクス研究により、MAP tau遺伝子発現とタキサン感受性、CYP2D6遺伝子多型とタモキシフェンの感受性などが注目されており、そこに向けての新しい臨床試験計画の可能性も軽く示唆した。「systems targeting」としては、HER2系とホルモン受容体系ふたつの増殖刺激経路間でのcross talkについて、Xiaらによる興味深いデータを紹介した(Xia, 2006 #1013)。しかし、San Antonio Breast Cancer Symposiumで発表されたTanDem trialでは、このようなcross talk modulation、あるいはco-targetingは、臨床的有用性の向上にはつながっていない、ということにも言及した。また、「host targeting」として、血管新生阻害を挙げた。bevacizmabは、Dr. Sledge自身が深く関与している領域である。転移性乳癌でのパクリタキセルとの併用のデータを示し、現在計画中のE5103試験を紹介した。

●E5103試験


 最後に、「The universe is full of magical things patiently waiting for our wits to grow sharper. - by Eden Phillpotts - 」という極めて含蓄のあるフレーズを引用して、発表を終えた。つまり、宇宙はまだまだわからないことばかりで、われわれ人類の智恵が成熟するのをじっと待っている、という意味。

[S2] The evolution of adjuvant endocrine therapy
Ian E. Smith (Royal Marsden Hospital, UK)
 Dr. Smithは、最初にEBCTCG2006のタモキシフェン(TAM)の効果に関するメタアナリシスにふれ、TAM5年投与は、無治療と比べ、症例群によっては0.49という大きなハザード比が得られていることを指摘した。このハザード比は、trastuzumabの効果に比べれば、遙かに大きいにもかかわらず、standing ovationが起きるほどは注目されていない、と実によいことを言った。引き続き、ATAC trial、BIG 1-98をレビューし、アロマターゼ阻害薬(AI)がよいといっても、TAMに比べてハザード比は0.83であり、さして大きな効果でもない、と指摘した。一方で、副作用プロフィールは表に示したように、かなり異なる。


タモキシフェンで多く見られる副作用

副作用項目 %difference
血栓・塞栓症 1.4-2.0%
子宮内膜癌 0.2-0.4%
ホットフラッシュ 4.5-5.0%
性器出血 3.3-3.7%

アロマターゼ阻害薬で多く見られる副作用
副作用項目 %difference
関節痛 7.0-8.0%
骨粗鬆症 4.0%
骨折 1.7-3.3%

 さらに、高コレステロール血症、心血管系疾患との関係についてレビューした。コレステロール値に関しては、AIはTAMに比べれば高頻度だが、それは、AIがコレステロールを上昇させるということではなく、TAMによるコレステロール低下作用と比較すると際だって見える、ということである。心血管系疾患については、TAMに比べAIで特に高頻度である、というデータではないことを示した。これらのデータから、AIは、高コレステロール血症、心臓血管疾患を促進するということではないことを確認した。
 そうすると、AIはTAMに比べ、upfront useでは、DFS、OSでわずかに優れている。副作用の差は少ないとはいえ、個々の症例で検討する必要がある。また、低リスク〜中程度リスクの症例では、AIとTAMの効果の差は極めて小さく、関節痛、膣乾燥症状やコストを考慮したうえで、TAMの使用も考慮すべきであると述べた。
 AIの効果は、ER陽性、PgR陰性、あるいはHER2陽性のサブタイプでTAMに比べて高いというような報告が初期になされたが、これは再現性のないデータである。AIのupfront useに比べてsequential useは、ハザード比が小さいと報告されているが、これはまだ結論がでておらず、現在進行中の試験によって答えがでるだろう。当面は、ハイリスク症例(腋窩リンパ節転移陽性、PgR陰性、HER2陽性症例)ではAIのupfrontを、それ以外の症例では、TAM→AIの順次投与という選択が理にかなっているといえるだろう。なお、ハイリスク症例ではTAM 5年終了後、AI 5年程度を目安として投与するのがよいだろう。今後、AIの最適投与期間に関する検討が必要である。
 閉経前症例については、卵巣機能抑制の有用性が強く示唆されているが、直接検証されたエビデンスは得られていない。また、卵巣機能抑制は他の治療に上乗せする意味はあるだろうか。例えばTAM単独とTAM+LH-RH analog、AIとの併用はどうだろうか。内分泌療法単独において、どのような症例の場合に抗がん剤と同程度の効果が得られるのか、などは未解決の問題である。

[S3] The evolution of treatment strategies "Aiming at the target"
Martine J. Piccart-Gebhart (Jules Bordet Institute, Belgium)
 2005年までの治療戦略の基本は、まずリスクを評価することから始まるものであった。ところが、2005年のSt. Gallen Consensusからは、まず、治療反応性(endocrine responsiveness)を評価し、次に効果と副作用のトレードオフを検討する、という戦略に大きく変わった。ここで示された興味深いデータは、HERA trialが、症例をHER2陽性に絞らないで行ったらどうなったか、というもので、それではtrastuzumabの有用性はまったく示されていない。

patient A patient B
57 year old female
invasive lobular carcinoma
ER+++, PgR+++, HER2 -
grade 1
Ki67 < 5%
t=3.0cm, n=1
57 year old female
invasive ductal carcinoma
ER-, PgR-, HER2-
grade 3
Ki67= 60%
t=1.5cm, n=0

《Risk dominates treatment selection until 2005》
 リスク、とくに、腋窩リンパ節転移だけで治療を選択していた時代なので、patient Aには、TAC 6サイクル、AC4サイクル→パクリタキセル12週などが行われ、patient Bには、FEC6サイクル、TC4サイクルなどが投与された。

《Responsiveness dominates treatment selection from 2005 to 2010》
 patient Aは、内分泌高感受性であるので、TAM 2年→AI 3年、AI 5年などをまず選択肢とし、抗がん剤治療を加えるかどうかは、要相談といったところ。一方、patient Bでは、anthracycline→タキサン(dose dense)など、最も有効性の高い治療を選択するということになる。

《Molecular fingerprints dominate treatment selectipon 2010-2015》
 patient Aは、luminal A signature/TAM sensitive signature/Mammoprint1: low risk/Mammoprint 2: medean riskとなる。治療の選択は、TAM 5年→AI 5年となる。一方、patient Bでは、basal-like/BRCA1 functional signature/Mammoprint1:high risk/taxan sensitive signatureということになり、さらに末梢血中にEGFR陽性細胞が検出される、というようなことになると、ドセタキセル6サイクルにbevacizumab、cetuximabを加える、というような話になる。別の角度からみると、現時点では「tumor burden」の多寡に基づいて、治療を増強したり、軽減したりして治療方針を決定しているが、近未来的には、「tumor biology」に基づく治療が標準となっていくだろう。
 また、リスク評価も地道な進歩を遂げている。TAILORx trial, MINDACT trial では、腋窩リンパ節転移陰性症例を「Oncotype DX」「70-gene signiature」「Adjuvant Online!」を用いてリスク評価し、ハイリスクには化学療法、ローリスクにはホルモン療法、そして中間リスクには、化学療法もしくは治療なしをランダム化比較(TAILORx)、MINDACTでは、どの判定を用いるかにランダムに振り分ける、という検討である。
 DNA発現プロフィールに基づき、乳癌は、単一疾患ではなくbasal like、HER2 disease、luminal A、luminal Bといった少なくとも4つの異なった疾患の集合と考えられる。今後は、各疾患別に臨床試験を計画していく必要があるだろう。

[S4] The evolution of adjuvant therapy- and the heart?
Thomas M. Suter (Swiss Cardiovascular Center, University Hospital Bern, Switzerland)
 癌治療薬の心毒性については、2005年の時点で指摘された様々な憂慮事項について一応注意が喚起され、2007年にはそれなりの安心と落ち着きが得られている。しかし、今後新たな不安や心配の種は尽きない。

◆2005年の懸案事項
  • 転移性乳癌とtrastuzumabによる心毒性
  • anthracyclineとtrastuzumabを同時に使用した場合の心毒性は28%
  • タキサンとtrastuzumabを併用した場合の心毒性は9%
  • trastuzumab単独では9%

◆2007年の懸案事項
  • 術後trastuzumabと心毒性
  • 重篤なうっ血性心不全は、1〜4%、アドリアマイシン使用直後のtrastuzumab使用で頻度は上昇する
  • Risk/Benefit: positive
  • Reversibility: likely yes
  • Pre Treatment: LVEF>50〜55%

 心筋にさまざまなoxidative stress(酸化的ストレス)が加わると、心筋内のカルシウム濃度の上昇をきたし、ある時点を超えると非可逆的な心筋壊死となる。心筋には、neurelginとHER2/HER4が機能しており、oxidative stressから心筋を守る働きがある。しかし、これをtrastuzumabで抑制することにより、心筋のダメージが発現すると考えられている。 trasutuzumabの心筋ダメージは、anthracyclineと異なり、reversibleであるが、どの時点で、あるいはどういう状況で、非可逆的となるか、ということについてはまだ充分には解明されていない。
 今後、trastuzumab投与の長期化、trastuzumabとanthracyclineとの併用など、新たな問題が出現することが懸念される。血管新生阻害剤なども、循環器科医にとっては気がかりな問題である。