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Session Summaryレポート

会期中1〜3日目までに発表されるセッション1〜10では、ここ2年間の知見がレビューされる。これこそが、最終日のコンセンサス会議で示される治療指針へ続く“pathway”であり、それぞれのセッション内容の理解によりその先にある治療戦略がみえてくるともいえる。今回は、編集委員の先生方に、それぞれのご専門の立場からセッションをご担当・ご解説いただいた。


サマリー執筆:久保 真(九州大学臨床腫瘍外科(乳腺))

セッションサマリー

[S6] Biology of breast cancer gene and beyond
Judy E. Garber (USA)
 Garber氏は、遺伝性乳癌のauthorityである。BRCA1/2遺伝子異常が存在すると高頻度に乳癌が発症するため、卵管・卵巣切除術(Lancet Oncology, 2006)や予防的乳房切除術で効果を上げていることを紹介した。BRCA2遺伝子異常ではER+乳癌が多く比較的予後はよいが、BRCA1遺伝子異常ではtriple-negative乳癌が約80%を占め、遺伝子解析の結果basal-like typeであるという。前回も発表した「BRCA1遺伝子異常を示すbasal-like腫瘍細胞では、シスプラチンの感受性が高い」という研究結果に基づき、BRCA1/2遺伝子異常の乳癌を対象にシスプラチン 75mg/m2×12週投与後手術を施行する臨床試験を開始した。

表1.奏効率
Response Data (n=28)
Response Clinical Pathological
Complete 4(14%) 6(21%)
Partial 10(35%) 4(14%)
Stable 6(21%) 9(32%)
No Response 4(14%) 5(18%)
Progression 4(14%) 4(14%)
(Judy EGより許諾を得て掲載)

 pCRが21%と高値であることを強調した。triple-negative乳癌の治療にプラチナ系薬剤が有効であるというひとつの選択肢を示した。遺伝性乳癌治療に対するtranslational researchの今後の結果を期待したい。

[S7] Genetic profiling: present and future
Charles M. Perou (Lineberger Comprehensive Cancer Center, University of North Carolina at Chapel Hill, USA)
 Perou氏は、遺伝子のプロファイリングにより、乳癌を予後と相関する5つのサブグループ(basal-like、HER2+/ER−、luminal A、luminal B、normal breast-like)に分類した先駆者のひとりである(PNAS, 2001)。今回、各サブグループの特徴から治療方針に至る臨床試験まで、現状と将来展望を詳細に総括してくれた。(1)HER2+/ER−腫瘍は15-25%の頻度であり、trastuzumabを基盤とした治療を組み立てる。加えて (a) 化学療法(AC、TCなど)+ホルモン治療、(b) 化学療法±lapatinibなどの分子標的薬剤、また(c) androgen receptor antagonistsとの組み合わせが検討されている(CALGB neoadjuvant trial 40301など)。(2)luminal/ER+腫瘍は以下の3グループに分類される。(a) luminal A (recurrence score[RS] low)は、化学療法を必要とせずホルモン治療(TAM、SERMs、AIsなど)が有効である。(b) luminal NOS (RS intermediate)は、ホルモン治療(TAM、SERMs、AIsなど)のみでよいのか化学療法を必要とするのかの評価が定まっておらず、注目の臨床試験(Tailor RX trial, MINDACT trial)が進行中である。(c) luminal B (RS high)は、化学療法を必要とするグループである。(3)basal-like 腫瘍は10-20%の頻度であり、p53BRCA1に高頻度の遺伝子変異を認める。EGFR/HER1やc-KITが治療標的となる可能性を示唆した。CALGB neoadjuvant trial 40603、LCCC 0403 などでは、cetuximabやcarboplatinを含むレジメンが組み込まれ、効果に期待を寄せていた。また、術前化学療法(anthracycline + taxane)の感受性はbasal-like tumorsが高いことも示した。以上のように各サブグループの治療方針と進行中の臨床試験を示した。

 最後に、乳癌治療は腫瘍生物学に沿って行われるべきであり、現在すでに開始されているが、今後もさらに加速していくだろうと締めくくった。

[S8] The story of steroid hormone receptors: Polymorphism and endocrine responsiveness.
Paolo Ciana (University of Milan, Italy)
 Ciana氏は、エストロゲンレセプターの活性(ERA)を可視化・追跡することに成功した業績(Nature, 2005)を解説した。この手段を用いて、エストラジオール(E2)依存性生殖臓器(卵巣、尿管、乳腺、視床下部、肝など)とE2依存性非生殖臓器(骨、脳、胸腺、小腸、大動脈)におけるE2濃度を追跡・解析すると、性周期は組織におけるE2依存性ERAとInsulin-like growth factor (IGF-1)依存性ERAによって機能・維持されることがわかってきた。ERとIGF-1Rの両シグナル系にはクロストークがあり(JBC, 2002)、発情間期でE2濃度が低い状況ではIGF-1がERの活性を増強させるため、IGF-1をブロックすることにより臓器でのERの活性を抑制できる可能性を説明した。また、IGF-1シグナルは悪性腫瘍で高発現し重要な役割を果たしているというreviewもあり(Samani AA. Endocr Rev, 2007)、ER-alpha発現を制御することで生殖組織におけるIGF-1依存性増殖活性の抑制につながる可能性がある。しかしながら、乳癌組織においてER-alphaの発現は細胞周期に関連して不均一であるため、その制御にはER-alpha intron 1の多型性を制御する必要があるという複雑性を説明した。その複雑性が乳癌や子宮内膜癌のリスクに関与していると結論づけた。

[S9] Cross talk between ER and HER signaling: inverse relationship between HER2 and ER in breast cancer
Kent Osborne (Baylor College of Medicine, USA)
 Osborne氏は、ホルモンレセプターシグナル経路の研究における第一人者である。ホルモン治療抵抗性の原因のひとつに、HER2などのgrowth factor receptorの関与を提唱している(JCO, 2005)。今回、ERシグナル系とHER2シグナル系のクロストークについて概説した。ERシグナル系とHER2シグナル系の間には、一方の発現が増強すると他方の発現・機能が抑制されるという関係がある。確かに、1,362例の原発性乳癌の検討では、HER2陽性例ではホルモンレセプターの発現が低いことがわかる(Huang. J Clin Pathol, 2005)。

図 ERシグナル系とHER2シグナル系のクロストーク

(Osborne. K氏より許諾を得て掲載)

表1.HER2発現別のホルモンレセプター発現頻度
  ER PR
Negative Positive Negative Positive
HER2 Negative 15% 85% 32% 68%
Positive 50% 50% 65% 35%
(J Clin Pathol 2005; 58: 611-616)

 Rimawiらの報告では、trastuzumab治療前後で、ER・PR発現はともに増加するかもしくは不変であった(SABCS, 2005)ことが紹介された。したがって、HER2シグナル系の発現を抑制するとERシグナル系は増強され、HER2分子標的治療抵抗性に寄与すると説明した(JCO, 2005)。逆に、ERシグナル系の発現を抑制するとHER2シグナル系は増強され、その結果ホルモン抵抗性を獲得するメカニズムを解説した。ホルモン治療により、Gutierrezらは腫瘍で12%、UhrらはCirculating tumor cellsで37%、Liptonらは血清HER2で26%にHER2陰性からHER2陽性への変化が起こったと報告している。
 したがって、分子標的治療の時代においては、治療の変更時に再度生検することが求められる。さらに、多くのデータを集積するために臨床試験が必要であると締めくくった。