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帰国後座談会

St.Gallen Oncology Conferences 2007
2007年3月24日 ストリングス東京ホテル

コンセンサス会議での討議内容の記憶も新しい、「St. Gallen Conferences 2007」閉会からわずか1週間後の3月24日に、編集委員の先生方にお集まりいただき、今年のconferencesを振り返っていただいた。新たに示された乳癌治療指針が臨床現場や治療戦略に与える影響とは?

参加者

渡辺 亨 先生
渡辺 亨 先生
相原智彦 先生
相原智彦 先生
岩田広治 先生
岩田広治 先生
大野真司 先生
大野真司 先生
久保 真 先生
久保 真 先生
紅林淳一 先生
紅林淳一 先生
中村清吾 先生
中村清吾 先生
穂積康夫 先生
穂積康夫 先生


◆集団的個別治療の完成を迎え患者一人ひとりの個別化へ
渡辺 我々は2005年、St.Gallen Oncology Conferencesの各sessionおよびコンセンサス会議をレポートし、WEB上で発表するプロジェクトを行いました。2回目となる今回は、新たに紅林先生と久保先生をメンバーに加え、陣容的にも内容的にもよりパワーアップした報告をしたいと考えています。
その一環として、ここでは、最終日に行われたコンセンサス会議について討議していきます。2007年のコンセンサスが最終的にどのような内容となるかはまだ不明ですが、まずは会議に参加した我々の中での認識を確認し、臨床医の先生方に本コンセンサスの理念および重要なポイントをお伝えしたいと思います。
最初にメンバーの先生方、今回のコンセンサス会議の印象やポイントを一言で表現していただけますでしょうか。
相原 私は「ターゲット治療の幕開け」と評します。ホルモン療法は以前からターゲット治療の雛形ですが、trastuzumabが術後療法において完全に市民権を得たことが強く印象に残ったからです。
岩田 「個別化治療」と「グローバル化」の2点ですね。
大野 「大リーガーによるトップレクチャー」と「riskからresponsivenessへ」と呼びたいと思います。2005年までは個々の「再発リスク」から治療を検討していたのが、2007年には「治療効果」からまず考える、というのが大きな変化と思います。また、世界のトップオンコロジストが切れ味鋭い講演を展開したことも印象的でした。
紅林 「trastuzumabの本格参入と分子プロファイルへの期待」です。すなわち、今回の会議において、HER2陽性症例に対する術後補助療法としてtrastuzumab投与が推奨されたこと、ならびに、治療選択の指針として分子生物学的手法を用いた検査法の導入が検討されたことが強く印象に残っています。
久保 「molecularからgeneへ」。臨床からみた場合、「グループ化から個別化へ」という流れですね。
中村 私は個別化治療が進む中で、コンセンサスを得ることがきわめて難しくなっており、もっと議論を尽くすことが必要だと感じました。「個別化とコンセンサスの乖離」と言えると思います。
穂積 「補充療法におけるtrastuzumabの市民権」と「tamoxifen(TAM)の復活」が印象的でした。
渡辺 私は2005年に導入された、まずターゲットを決めてからリスクを評価するという流れが今回完成されたという印象を受けました。「集団的個別治療の完成」、さらに「一人ひとりの患者への個別化治療の出発」ですね。
では共通の認識として、今回は内分泌療法と分子標的治療を軸とした個別化治療がかなり具体化したことが一番のポイントといえますね。またリスクカテゴリーにほとんど変化がありませんでしたが、基礎となる理念が変わったこともポイントでしょう。

◆閉経後乳癌ではtamoxifenからアロマターゼ阻害薬への切り替えに高い支持
渡辺 では引き続き、コンセンサス会議で提示された設問とそれに対するパネリストの投票結果を参照しながら議論していきたいと思います。
まず会議では、閉経後患者の内分泌療法について投票が行われました。先ほど穂積先生も仰いましたが、TAMが復権しており(Q1)、TAM2〜3年後にアロマターゼ阻害薬(AI)を投与するという選択肢の支持者が多かったことが印象的です。前回の会議ではBIG1-98試験報告の直後だったこともあり、AIに対して期待する雰囲気がありましたが、今回は異なっていました。先生方のご意見はいかがですか。
穂積 以前から、何でもAIを投与するには抵抗がありました。それが、今回のパネリストの先生たちの多くも同様に考えていることを知って安心しました。
相原 私は患者の状況によっては、TAMを使用することも依然多いです。ATACやBIG1-98の結果を見てもAIのTAMに対する再発のハザード比の改善が小さく、また、AIの副作用プロファイルが懸念されるポピュレーションがあるからです。今回の投票結果を見て、やはりTAMからの開始が多いのだと思いました。
大野 私も欧米の実地臨床では術後患者に対し、N+やHER2+などを除けば、TAMから始めることが多いのではないかとの印象を持ちました。
岩田 パネリストの先生方は皆、IES試験でTAM→AIへの切り替えでOSに差が出たことをご存知ですね。コストの問題もありますし、AIによる骨粗鬆症への懸念などにより、TAMから開始するのではないでしょうか。
紅林 私もそう思います。
久保 AIとして優れた薬剤が出てきているけれども、現時点では慎重に導入を考えているということですね。
渡辺 AIから投与開始するか否かは、BIG1-98試験の最終結果が2008年に報告されれば、はっきりするかもしれません。
岩田 その前にはexemestane 5年と、TAMからexemestaneへの切り替えを比較するTEAM試験も報告されますね。
渡辺 このような状況を見ると、種々の試験結果が得られるまでは不確実ではありますが、閉経後の患者に対しTAMはまだ十分、使用できると解釈してよいと思います。 では、閉経後における内分泌治療の期間についてはいかがでしょうか。今回の回答(Q7)を見ると、当面はエビデンスがある5〜10年が目安のようです。
紅林 これはTAMとAIを合わせたトータルの期間ですね。ただTAM2年投与後にAIを3年投与して終了するのではなく、その後も続くという含みを残しているようですね。
渡辺 そうしますと、これから治療を開始する閉経後患者には、とりあえずTAMから始めて2〜3年後に切り替える、あるいはAIから開始するということで、トータルの治療期間に関しては今後結果が出ると考えておけばよいですね。
久保 Q9では内分泌療法実施患者の支持療法としてカルシウムとビタミンD3への支持が高いのですが、これは一般的なことなのでしょうか。
渡辺 2003年のASCOのガイドラインでは、骨粗鬆症に関してhigh riskの場合は骨塩量を評価し、その程度に応じてカルシウムとビタミンDの摂取を開始すると述べられています。私自身はこうした支持療法を行っていませんが。
相原 日本人における明確なデータはないですよね。
大野 欧米には65歳以上の患者が多く、日本では50歳代が多いですね。年齢や医療環境、1日のカルシウム摂取量などにより、サプリメント使用事情は欧米とは随分異なると思います。
渡辺 確かにそうです。重要なポイントではありますが、もう少し疫学調査や発症年齢の影響を検討しなければ、一概には言えない状況ですね。

◆閉経前の内分泌療法ではLH-RHアゴニストとTAMを併用
渡辺 では次に、閉経前の患者についてご意見を伺います。今回内分泌治療において卵巣機能抑制(OFS)+TAMを標準治療とする意見が多かったですね(Q11)。
紅林 今回のsession 7(S28)でも紹介されましたが、2006年のSan Antonio Breast Cancer SymposiumでDr.Cuzickにより発表されたメタアナリシスでは、TAM単独よりも、OFS+TAM併用がよいとの結果が出ています。また進行再発乳癌におけるエビデンスもありますから、併用したほうがよいという意見なのでしょう。
穂積 私も実地臨床では、ある程度以上のリスクの方にはOFS+TAMを一般的に使用しています。
岩田 現在日本でも、TAM単独よりも併用のほうが一般的になっていると思います。
相原 リスクの低い患者に対してもOFSを行うべきでしょうか。
岩田 反応性を見て治療を選択する形になると思います。今回、内分泌反応性の患者ではホルモンを抑えるということが、非常に重要視されていますね。
渡辺 OFSの手段として、何がよいかという設問(Q13)ではLH-RHアゴニストの支持が高い一方、76.3%が卵巣摘出を支持しています。
岩田 この回答にはかなり驚きでした。日本の一般臨床では、卵摘は行われていませんので。
紅林 high riskで内分泌反応性の患者に卵摘を行えば、確実に卵巣機能を抑制できると考えている先生方が欧州には多いのでしょう。
渡辺 そうした考え方は根強いですね。卵摘には直接的なエビデンスはなくとも、十分な理論的根拠があり有効だということなのですね。
ではOFS+TAMの期間についてはいかがでしょうか(Q14)。
紅林 今回「N+および/またはHER2+では5年に延長」が7割近く支持されていたことに大変驚きました。日本の一般診療では恐らく、2年以上投与することは少ないと思われますので。
大野 私もこの数値を見て、かなり驚きました。
相原 例えば30代後半〜40代前半の場合、2年で治療を中断することに不安を覚える患者もいますので、その場合は本人と相談して続けることはあります。
渡辺 そこはきわめて重要なポイントですね。私自身は「患者別に選択」に投票しました。8割のパネリストが「患者別に選択」を選択しているのは、time to menopauseの考え方が背景にあるのだと思います。
紅林 35歳の患者と47〜48歳の患者では使い方が違ってもいいですよね。
渡辺  作用機序を十分考慮して治療期間を決めるべきであり、一概に期間を区切るわけではないということでしょう。
岩田  ここで多くのパネリストが延長して使用すると答えているのは、重要なメッセージですね。データがない領域ですから。
渡辺 Q15の化学療法とOFSについてご意見はありますか。
相原  先ほど紹介したsession7(S28)では、化学療法後にOFSを行うことで予後が改善するとの解析データが紹介されていました。年齢については詳細な解析が行われていませんでしたが、これまでの知見から、40歳未満の場合メリットが大きいのではないかと思いました。
渡辺  化学療法で卵巣機能が廃絶しない場合のLH-RHアゴニストの有効性については、サブセット解析でよい結果が出ているだけなのですが、Q15を見ると、逐次併用がコンセンサスを得ているようですね。
紅林 またQ15では、妊娠を希望する患者での同時投与が支持されています。
相原 卵巣機能を保護するということですね。
中村 これについてはまだcase seriesしか報告がなく、卵巣保護の明確なエビデンスはないと思います。ASCO が2006年6月にJournal of Clinical Oncology誌に発表したRecommendation(J Clin Oncol, 24(18); 2917-31, 2006)でも、臨床試験以外では積極的には勧められないと述べられています。
紅林 治療効果の面では、化学療法と卵巣機能抑制の同時併用と逐次併用の優劣に関する論理的根拠はありません。
渡辺 まだ結論が出ていない領域であり、臨床試験以外では行うべきではないという考え方でよいと思います。
一方、Q16の結果を見ますと、閉経前患者におけるOFSとAIの併用には支持が集まっていませんね。
紅林 SOFT試験、TEXT試験、PERCHE試験などの結果発表が行われれば変わってくるかもしれませんが、まだエビデンスはありませんし、副作用の問題もあると思います。
渡辺 この投票結果からは、OFS+AIについては少し慎重に実施すべきだけれども、TAM禁忌の場合には使用してもよい、といえそうですね。

◆内分泌非反応性における化学療法には決定打見当たらず
渡辺 それでは化学療法に焦点をあてた設問に移りたいと思います。会議ではまず、内分泌非反応性患者に関する討議が行われました。こうした患者に広く用いるレジメンとして、CMFがまだ4割の支持を得ています(Q20)。
大野 CMFについては、古いレジメンではあるが、まだ使用できると2001年頃から言われています。現在もその状況は変化していませんね。
渡辺 レジメンは大きくCMF、アンスラサイクリンを含むレジメン、タキサン系薬剤を含むもの、そしてdose denseに分けられますが、タキサンについての設問は今回あまりなかったですね。
相原 Q22を見ると、タキサンを使わない人も意外に多いという印象があります。
渡辺 HER2+について質問した Q21をみても、タキサン使用についてはあまり圧倒的な支持は得られていません。2005年の会議では、N+のintermediateないしhigh riskではタキサンを使用するのが標準でしたが、今回はトーンダウンしており、まだ定まった位置づけができていないようです。
相原 Q2122で、標準とされるようなレジメンがほとんどないというのはどういうことなのでしょう。
渡辺 細胞毒性抗癌剤に関しては、triple negativeでもHER2+でも、これといった決め手はないという、行き詰まり状態をあらわしているのかもしれません。
中村 ただし化学療法についての設問は、各レジメンや薬剤がまだ選択肢の一つとして使えるかどうかという聞き方をしたため、きわめて分かりにくい結果になっていますね。本当に知りたいのは、どのレジメンが頻用されているかということだと思うのですが。
岩田 私も、年齢や閉経状況、内分泌反応性、HER2などについてもっと個別に、かつ具体的に質問しなければ、答えにくいという印象がありました。
穂積 その通りだと思います。この設問では、結局なんでもありなのかと言う印象になりますね。ただ、決定的なレジメンがないのも事実ではあると思います。
渡辺 Q23では、HER2+患者におけるアンスラサイクリンとタキサンがいずれも50:50に分かれ、やはり決定打がないという感じです。
岩田 これもどういう状況を想定しているかがわからず、設問にリスクの設定がないことに無理がありますね。
渡辺 trastuzumab投与におけるHERAモデルか、同時投与かについてはいかがですか。
岩田  これについては、欧州のパネリストと米国のパネリストの人数の割合が結果に反映したといえるのかもしれません。欧州のパネリストはほとんどHERA試験に入っていますから。
渡辺 日本での承認は現在のところ、HERA型の予定ですね。
またQ23ではcarboplatin/docetaxelに関する設問もありましたが、この回答を見ると、BCIRG-006試験の結果もまだ決定的なエビデンスになっていないようです。

◆Methoronomic Chemotherapyと内分泌療法をどう併用するか
渡辺 内分泌反応性不明・不確実の患者に関し、前回のガイドラインでは化学療法後内分泌療法を逐次行う治療法に加え、化学療法+内分泌療法の同時併用も記載されていました。しかし今回は同時併用に対する「No」が約94%を占めています(Q26)。これはINT 0100試験がエビデンスですね。これを見ると、後日発表されるSt. Gallen 2007のコンセンサスとしては化学療法→内分泌療法の逐次併用だけが残るということになりますか。
紅林 可能性はありますね。AI、LH-RHアゴニストについては比較試験の結果がありませんから、同時併用もコンセンサスとして残るかもしれませんが、専門家の意見としては逐次投与がよいということですね。
穂積 現時点で、同時投与を支持するエビデンスがない以上、逐次投与と言うことになります。
岩田 化学療法がアンスラサイクリン以外の薬剤であれば、状況は違うと思います。タキサンやmetronomic chemotherapyのように5-FU系薬剤を使う場合、まだいろいろと不明な点があります。
相原 I.V. chemotherapyのように3〜6カ月で終了するものについては、副作用などを考慮し逐次投与するのではないかと思います。metronomic chemotherapyの場合、たとえばACETBC 4th 試験ではUFTとTAMの併用でよい結果が出ていますね。
紅林 基礎的なデータとしては、アンスラサイクリンとTAMを併用した場合、分子レベルで互いに減弱させる作用があります。これに対し、5-FU系とTAMはむしろ少し相乗的に働きます。このため、併用については薬剤別に考える必要があると思います。
渡辺 一概に化学療法と括るのではなく、作用機序に基づいた判断を臨床的に検証する必要がありますね。S-1・1年+AI・5年の同時開始と、逐次投与を比較したらどうなるかなどは、興味がありますね。

◆術前療法では実施の目的が重要
渡辺 Q29の術前治療についてもコメントをいただけますか。
相原 乳房温存を目的とするのであればよいが反応性を評価するためだけの実施には反対意見が多いということですね。
渡辺 より質の高い乳房温存達成といった、患者のベネフィットに直結する目的のためなら実施してもよいという意見が多数支持されたということだと思います。また、タキサンを組み込むべきとの意見は意外と少ないですね。
岩田 手術のための腫瘍縮小に重きを置くのであれば、タキサンを必ず組み込む必要はないかもしれません。pCRを目的とする場合はタキサンを入れるべきですが。
渡辺 私はパネリストとして昨年末頃、何か設問はないのかと聞かれたのですが、その際に術前化学療法からスタートすることを提案しました。しかし他のパネリストは、術前化学療法でベネフィットが得られる症例はあまり多くないという認識のようでした。
岩田 世界では術前化学療法にあまり注目してないのですね。それが非常に印象的でした。
渡辺 一方Q30では、術前療法に内分泌療法を加えるか否かを尋ねています。
紅林 それに関してはまだほとんどデータがありません。このため、否定的な意見が多くなったのだと思います。
相原 私は術前療法として、内分泌療法単独が半分も支持されたのが意外でした。
渡辺 術前化学療法を行った場合、内分泌反応性の患者ではpCRが低いことから、内分泌療法のみという選択肢もあるということでしょう。ただし内分泌療法にはそれほど明らかなデータはないのですが。
中村 データがあるのは閉経後にAIを使った場合ですね。閉経前ですと疑問点が多くなってしまいます。
渡辺 この点については、もう少し状況を見極める必要がありますね。

◆HER2過剰発現/増幅およびtriple negative乳癌に対する取り組み
渡辺 Q31はtrastuzumabをどのような患者集団に適用するかという設問でした。
穂積 今回の回答では、trastuzumabをかなり広く適用するというパネリストが多かったですね。trastuzumabがここまで前面に出てくるとは思っていませんでした。
岩田 腫瘍径1p未満、N−でもtrastuzumabを支持する意見が多かったですよね。米国での承認は、N−かつ1cm以上あるいはN+なのですが。
穂積 N−であっても、効果を考えると費用対効果が高いという認識のようですね。Q31の最後の設問以外の条件であれば、患者個人にとってはコストが高くとも、全体で見ると安くなるということでしょう。
岩田 HERA試験ではN−患者も含めていますが、腫瘍径は1cm以上です。1cm未満に対するデータはないのに、trastuzumab支持が多いのは驚きでした。
大野 確かにフロアで見ていた我々も、まずは腫瘍径2cm未満の結果で驚き、1cm以下でさらに驚きました。
相原 これは非常にインパクトの強い結果でしたね。
渡辺 ただしこの時点では会議の残り時間が少なく短時間で投票を行ったために、パネリストが混乱していたのも確かです。この設問については、まだ定まった見解が得られていないというべきでしょう。
一方、Q33の結果をみてもわかるとおり、trastuzumabを用いる場合の期間が1年というのは当然といえますね。Q34も当然の結果と言ってよいでしょうか。
紅林 心機能低下患者ではtrastuzumabをあまり用いないほうがよいのですが、それは必ずしも年齢で判断できるわけではないということですね。
渡辺 今回のコンセンサス会議ではtrastuzumabに関する設問が駆け足で行われた一方、「triple negative」乳癌に関する設問もいくつかみられました。
紅林 triple negativeが取り上げられていたのは、とても面白いと感じました。
渡辺 Q18を見ると、HER2+ではアンスラサイクリンベースの治療が好まれていますが、triple negative患者ではアルキル化剤を適用と回答している割合が高いですね。
紅林 臨床試験のデータはありませんが、triple negative ではBRCA1遺伝子が機能していない症例が多いため、DNA障害性の薬剤がよいということなのでしょう。
久保 この回答とは一致しませんが、プラチナ系薬剤の方については、session 2(S6)で報告がありました。BRCA1遺伝子変異の場合シスプラチンが有効で、pCRは21%と高値でした。
紅林 すべてのtriple negative乳癌に有効かどうかは不明ですが、少なくとも一部には、DNA障害性の強い薬剤にきわめて反応のよい患者がいると思います。
渡辺 他にtriple negativeでの取り組みについて新たな話題がありますでしょうか。
中村 プラチナ製剤+sunitinibとプラチナ単独の比較試験が行われているようですね。
紅林 triple negativeの3〜4割ではHER1が過剰発現していますから、gefitinibも有効である可能性があります。また、新規分子標的薬であるdasatinibが、triple negative乳癌細胞に対して極めて有効だという前臨床のデータが最近、報告されました。本剤を用いた臨床試験がうまく進めば、コンセンサス会議でこうした治療法が取り上げられるかもしれません。
渡辺 現在はtriple negativeに様々なタイプの乳癌がまとめられていますが、今後さらに詳細なbiologyが明らかになってくれば、適正な治療法も登場するでしょう。現在はまだ、暗中模索の状態ですね。

◆24病型に基づいた乳癌治療の考え方
渡辺 では以上の議論を踏まえ、St. Gallen 2007のコンセンサス会議についてまとめたいと思います。私は本年の会議にほぼ準拠する形で、24のカテゴリーを作成してみました。これまでは内分泌反応性あり/なし/不確実とlow/intermediate/high riskの計9カテゴリーで閉経前後の治療を判断していましたが、これにHER2陽性/陰性を加えると、のような24病型になります。ここでは今回のコンセンサス会議での投票結果(Q26)に基づき、化学療法と内分泌療法を逐次投与にしています。本表の24個のセルに該当するケースを1つ1つ想定して、治療の選択肢を考えていけば分かりやすいと思います。
岩田 先ほども話に出ましたが、今回の会議における設問も、もっと厳密に状況設定をしなければ投票することは難しいという印象があります。渡辺先生が提示された24病型について、1つずつ議論していただいたほうがよかったのかもしれません。
渡辺 私は第5回目のSt.Gallenから参加していますが、このような形式が伝統になっている面がありますね。今回はパネリストとして事前に設問リストを入手したので、設問の仕方自体に関するいくつかのコメントを提出したのですが、やはり回答しづらいものもありました。
中村 保険適用が各国によって異なることも集計結果をそのまま解釈しにくいことの1つの原因だと思います。薬剤が各国の保険診療上使用できるか否かや、コストの問題が随分オピニオンに影響を与えているようです。
渡辺 国による違いは確かにありますね。ただし今後は、そのような社会的背景の差が次第に小さくなってくるのではないかと思います。
グローバル化という点から言うと、わが国からは今回、紅林先生が日本の乳癌に関するご発表をなさいました(session6 S25)。インパクトの強い報告で実に評判が高く、発表後は海外の先生から様々な質問を受けました。日本は特殊な地域であると思われることも多いのですが、紅林先生のデータは、乳癌やその治療の基本は同様であり、乳癌亜型の発現と予後に差があることに言及したものでした。
紅林 今回私が発表する機会をいただきましたが、2年後も日本からの報告ができるよう、次にバトンタッチしたいと思っています。
渡辺 今回のような疫学的データだけでなく、今後は治療に関する試験結果を日本からより多く発信できるとよいですね。
さて、本座談会では先生方に様々な示唆をいただきましたが、今回行われたSt. Gallen 2007のコンセンサスは現在writing committeeによってまとめられつつあり、今夏、Annals of Oncology誌へ掲載される予定です。票数が分かれた設問もありますので、どのような内容になるか期待して待ちたいと思います。
それでは先生方、本日はお忙しい中誠にありがとうございました。