乳がん Q&A
乳がんに関する様々な疑問を乳腺専門医が分かりやすく解説しています。
遺伝性乳がんとは何ですか?
遺伝が要因で発症するがんのことです。現在日本でもその実態を明らかにする研究が進められています。
中村清吾先生
(昭和大学医学部外科学講座乳腺外科学部門教授)
海外では、乳がんのうち5~10%は、遺伝要因が影響して発症することが知られています。そのうち70~80%にBRCA1やBRCA2という遺伝子に変異があるといわれています。つまり、これらの遺伝子のどちらかに生まれつき変異があると乳がんになるリスクが高くなるのです。
BRCA1/2遺伝子は、遺伝子検査で調べることができます。しかし、日本では遺伝子検査の保険適用がないため、検査を受ける人はごく少数でその実態が明らかではありません。さらに、遺伝子に変異がみつかった患者さんに対する治療や検診に関しても保険適用がないため、なお一層、遺伝カウンセリング体制導入の遅延に繋がっています。
近年、若くして乳がんになる方や、トリプルネガティブ乳がんといわれる乳がんが着目され、それらの発症要因としてBRCA1遺伝子変異との関連が取り沙汰されることが多くなってきました。そこで日本でも実態調査を行うべく、日本乳癌学会による研究が進められ、かつ本年1月に日本HBOCコンソーシアム(http://hboc.jp/)が設立されました。
海外において「遺伝カウンセリング」「遺伝子検査」は、すでに医療の一部として普及・定着しています。遺伝カウンセリングでは、遺伝子検査を受けるかどうかの支援を行い、心配事や不安などに対する相談も行います。実際、遺伝子検査を受けた場合、その結果は今後の治療(手術)に大きく影響します。さらに、海外では、実際、がんを発症した患者さんだけではなく、まだ発症していない患者さん(未発症陽性者)に対する乳がん検診(MRIを含む)や、卵巣がんに対する検診プログラム、薬剤の予防投与等もガイドラインにて推奨され、がんを発症する前の予防治療環境も整っています。
日本でも、上記のような対応ができるよう、保険適用や標準治療に結びつけていく必要があります。
トリプルネガティブ乳がん
エストロゲン受容体(ER)とプロゲステロン受容体(PgR)という女性ホルモンの受容体がなく、HER2受容体もないタイプの乳がん
HBOC
BRCA1やBRCA2遺伝子が生まれつき変異していることが原因で乳がんや卵巣がんを高いリスクで発症する遺伝性の癌で、遺伝性乳癌・卵巣癌症候群といいます。
乳癌診療Tips&Traps No.40(2013年6月発刊)Question3を再編集しています。
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