乳がん Q&A
乳がんに関する様々な疑問を乳腺専門医が分かりやすく解説しています。
重粒子線治療とは何ですか?
「重粒子線」という放射線を利用し、従来の放射線治療では根治が難しかった腫瘍も治すことができる治療法のことです。
唐澤久美子先生
(独立行政法人放射線医学総合研究所重粒子医科学センター病院治療課第3治療室長)
重粒子線治療とは、重粒子線を利用した最先端の放射線治療法のことです。これまでの放射線治療は一般的にX線が利用されていますが、X線はレントゲン撮影などで利用されているように、体を通り抜ける性質があり、照射した体の表面近くの線量が最大で、体の奥へ進むほど弱くなります。一方、重粒子線は、がん病巣に的を絞って最大の線量で照射でき、X線と比べてがん細胞を死滅させる効果は2~3倍あります。
これを利用して、これまでの放射線治療では根治が難しかった肉腫や悪性黒色腫といった腫瘍も治せるようになっています。さらに、従来の治療法で治療が可能ながんでも、より少ない負担で効果的に治す目的で「前立腺がん、早期肺がん、肝臓がん、早期乳がん」などにも用いられています。
しかし、重粒子線治療は手術と同じ局所の治療となります。治療した部分は治っても、治療しなかった部分には効果が及ばないため、がんがあちこちに広がっている場合や、ミクロのレベルで広がっている可能性がある場合は、薬物などによる全身治療が適しています。
重粒子線治療が適している患者さんは、次のような方です。
- 腫瘍が狭い範囲で限られており、その部分を治療すれば完治が望める場合
- 長期生存が期待でき、症状が取れて生活の質が上がる場合
重粒子線治療は、重粒子加速器という特別な装置が必要で、2013年現在、重粒子線治療を受けられる施設は世界に7ヵ所にあります。そのうち4ヵ所は日本(放射線医学総合研究所、兵庫県立粒子線医療センター、群馬大学重粒子線医学研究センター、九州国際重粒子線がん治療センター)にあり、日本は、優れた物理学者・工学者と技術力のお陰もあり、この分野で世界をリードしています。
現在、新たに神奈川県立がんセンターなど世界6ヵ所で建設が進められています。
重粒子線
放射線のひとつ。放射線にはX線やガンマ(γ)線などの電磁波と、陽子線、重粒子線などの粒子線があります。重粒子は、粒子の大きさが大きく重いものを指し、治療には炭素イオン線が利用されています。
乳癌診療Tips&Traps No.42(2014年2月発刊)Question2を再編集しています。
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