メニュー

本サイトは医師を対象とした定期刊行誌「乳癌診療Tips&Traps(2001年9月~2015年9月発刊)」(非売品:大鵬薬品工業株式会社提供)の編集に携わる先生方を中心にたくさんの乳腺専門医にご協力いただきながら乳がんに関する情報をわかりやすくQ&Aやアニメーション形式で提供しています。掲載された情報は、公開当時の最新の知見によるもので、現状と異なる場合があります。また、執筆者の所属・役職等は公開当時のもので、現在は異なる場合があります。

乳がん Q&A

乳がんに関する様々な疑問を乳腺専門医が分かりやすく解説しています。

乳房温存手術が増えているそうですが、再発などは大丈夫ですか?

外科手術は必要最小限にとどめる傾向に。ただし局所再発予防に注意が必要です。

武井寛幸先生
(埼玉県立がんセンター乳腺外科副部長)

乳がんの外科手術は、かつては乳房切除術や内胸、鎖骨上リンパ節郭清など、大きく切除する方向にありました。しかし、生存率の向上という点ではあまり効果がみられなかったために、胸筋温存乳房切除術を経て、放射線療法と組み合わせた乳房温存術が始まりました。さらに、センチネルリンパ節生検によって腋窩リンパ節郭清も省略されるようになってきており、このように、乳がんの外科手術は縮小される傾向にあります。乳がんの外科手術で最も大切なのは、病床を残らず取り去ることです。これを確認するために切除断端にがん細胞が残っていないかどうか、厳格な検査が行われます。
全国主要病院のアンケート調査(2005年12月4日付け読売新聞)によると、施設ごとの乳房温存率は13~95%と、施設によってかなり開きがあるのが現状です。乳房温存療法はチーム医療のうえに成り立っているので、施設ごとの取り組みの違いが数字の差となって表れているといえそうですが、医師や患者さんの乳房温存術後の乳房内における局所再発リスクと、その生命への影響に対する認識の違いも原因の1つと考えられます。
局所再発とその後の生存率に及ぼす影響について長期間観察した複数の臨床試験成績の分析結果から、以下のようなことが指摘されています。

  1. 局所再発予防には放射線療法が効果的である。
  2. 手術法にかかわらず、術後5年以内に局所再発がなければ局所治療は成功といえる。
  3. 局所治療がおろそかになると全身治療の有無によらず生存率が悪化する。

そこで、外科手術を行う場合は、手術法にかかわらず、局所再発予防のための放射線療法、切除断端の陰性化、薬物療法による全身治療の併用が推奨されています。

切除断端

乳房温存術では、一般的に腫瘤をある程度の正常組織とともに切除するが、このいちばん外側部分が断端といわれている。手術後の病理検査で断端にがん細胞があって陽性と判断されれば、がんが取りきれておらず、局所再発の率が高くなる。

コラム:乳房温存率は高ければよいというものではありません。

一般に公表されている乳房温存率だけからは、その施設の乳房再建術数、術後乳房の整容性(残った乳房の形がよくなければ温存の意味がありません)、乳房内再発率などについての情報を知ることはできません。
乳房温存率が高いからといって、必ずしも進んだ治療とはいえないのです。乳房温存術を希望する場合には、術後の整容性はどうか、再発の可能性はどのくらいか、などについても確認するとよいでしょう。また、治療において放射線を浴びれば再建が難しくなるということも頭に入れておく必要があります。

乳癌診療Tips&Traps No.16(2006年6月発行)Question1を再編集しています。

※掲載された情報は、公開当時の最新の知見によるもので、現状と異なる場合があります。また、執筆者の所属・役職等は公開当時のもので、現在は異なる場合があります。