乳がん Q&A
乳がんに関する様々な疑問を乳腺専門医が分かりやすく解説しています。
乳がんは骨に転移しますか?
乳がんは骨転移の頻度が高いがんです。
田部井敏夫先生
(埼玉県立がんセンター内分泌科部長)
悪性腫瘍のなかでは、多発性骨髄腫、乳がん、前立腺がん、肺の腺がんなどは、骨に転移する頻度が高いがんです。特に乳がんでは、リンパ節、肺と並んで、骨は転移しやすい部位といえます。
骨への転移は、痛み、骨折、脊髄圧迫による神経麻痺、高カルシウム血症などを引き起こします。なかでも骨転移による痛みは長く続いて生活の質(QOL)を低下させるので、早期の診断と適切な治療が必要です。
骨転移の診断には、単純X線、骨シンチグラフィ、CT、MRIなどが用いられますが、最近ではPETも利用されるようになってきました。
単純X線は、骨シンチグラフィに比べると転移の判定が遅れますが、治療効果の判定には有用な情報が得られます。骨シンチグラフィは、一度で全身の骨を調べることができるのが特徴です。CTは、MRIの普及で骨転移の検査に用いられることは少なくなりましたが、呼吸のために動きが大きい肋骨の検査に使われます。MRIは、骨髄に転移したがん細胞のようすを知るのに大変役立つ検査法です。骨シンチグラフィで異変が疑われるものの、単純X線撮影で異常がない場合にはMRI検査が必要です。また、PETは、有用性の高いことが次第に明らかになってきている方法です。
これら複数の検査法を組み合わせることで、より正確な診断ができます。
高カルシウム血症
高カルシウム血症は、血液中のカルシウム濃度が非常に高くなった状態です。がんが骨に転移して骨の細胞を破壊すると、カルシウムが血液中に放出されて高カルシウム血症が起こります。初期症状としては、便秘、吐き気、嘔吐、腹痛、食欲減退、多尿などがあります。
骨シンチグラフィ
アイソトープ(放射性同位元素)を血管内に注射して、体内の分布状態を撮影して、がんが骨に転移していないかどうかを調べるための検査です。
CTスキャン(コンピュータ断層撮影)
コンピュータを用いた特殊なX線断層装置で、体の断面を映し出す検査法です。肺、肝臓、脳など、乳房以外の部位に転移がないかどうかを調べるときに用います。
MRI(磁気共鳴画像法)
体を強い磁場の中に入れ、ある周波数の電磁波を流すと体内の水素原子が変化するため、このときの原子の状態をコンピュータによって画像化して病巣を見つける検査法です。この検査では、横断面だけでなく、縦・横・斜めとあらゆる断面、角度での撮像が可能です。乳がんの診断やがん細胞の広がり、転移の有無を確認するために用います。
PET
アイソトープ(放射性同位元素)で標識したブドウ糖を使って、その体内分布を映像化する検査法です。がん細胞は正常の細胞よりも活動性が高いために、栄養となるブドウ糖をたくさん取り込む性質があります。がん細胞がブドウ糖を取り込む量はその活動性に比例するので、PETはがん細胞の活動性(悪性度)を反映する検査ともいえます。
乳癌診療Tips&Traps No.10(2003年11月発行)Question1を再編集しています。
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